「QCDの達成をITプロジェクトのゴールにしてはならない。投資案件である以上、ゴールは想定効果の実現以外ありえない。しかしながら、IT投資の効果実現に本気で取り組んでいる企業は少ないと感じる。」
あくまで私の主観だが、クライアントも含めたITプロジェクトの関係者からQCD(品質・コスト・納期)が神聖視されるようになったのは、2003年11月の「日経コンピュータ」誌に、新規システムの導入・開発で成功した(当初予定していたQCDを遵守できた)プロジェクトの割合は全体の26.7%しかないという特集が掲載された頃だったように思う。
当時、この統計の影響力は大きく、ITプロジェクトは非常に困難であるという認識が一般企業にも広まった。IT業界でプロジェクトマネジメントの世界標準方法論であるPMBOKがブームになった要因にもなった。PMO(Project Management Office)という通称で、プロジェクトマネジメントの支援サービスがコンサルティングファームのサービスメニューになり始めたのもこの頃だろう。
ところが、2014年10月の同誌における調査では、開発期間によって多少の差があるものの、単純平均での成功プロジェクト(QCDを遵守できた)の割合は75%だという。10年余りで成功率が2.5倍と大幅に改善した計算になる。
この改善はシステムベンダーのプロジェクト管理能力が向上した成果なのか、PMOサービスの普及が貢献したのか、クライアントがQCDを達成しやすいよう目標値に余裕をもって設定するようになった為なのかは判断しかねるが、いずれにせよITプロジェクトの現場でQCDの達成が重要視され続けた結果であることは疑いないだろう。
QCDがプロジェクト管理上の重要な指標であることに一切の異論はない。しかし、その一方で、QCDを遵守できたらプロジェクトは成功、という定義や風潮には違和感を禁じ得ない。ITプロジェクトとはあくまでIT投資の一環であると思う。投資案件である以上、プロジェクトの成功とは投資効果の実現でしかありえないはずだ。
極論めいたことを言うと、費用が予算より10%超過しても期待値の倍の効果が実現したなら、それは大成功かもしれない。資金繰りがつくのなら、むしろ投資判断としてはその方が正しいともいえるだろう。もしスケジュールを1か月遅らせることで期待値の倍の効果が実現しうるなら、有力な選択肢になるだろう。QCDは重要な指標ではあっても、絶対的なものではないし、まして最終目標ではありえない。
しかし実際には、QCD達成には注力しても投資効果の実現に本気で取り組んでいるITプロジェクト、あるいは企業自体がとても少ないと感じる。トップマネジメントが出席するステアリングコミッティでもQCDに関する課題、例えば総合テストで露呈した不具合の発生状況、開発ベンダーとの追加開発費のゴタゴタ、進捗遅延の対策などが議題に上がることがあっても、投資効果の実現見込みや達成状況が能動的に報告されることはほぼない。トップマネジメントから報告を求められることすら稀ではないかと思う。
以上の認識に基づいて、IT投資に関する提言を3つ列挙する。極論に思えるフレーズがあるかもしれないが、少しでも共感いただけることがあれば幸いだ。
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